和傘について
植物油について
はじめに、
和傘の植物油について一般の方は知る機会がないかと思いますので、長年販売してきた経験を基にご案内させていただければと思います。
雨の日に使用される和傘には、総じて天然の植物油が塗ってあります。
一般家庭で連想される植物油は、半乾性油に分類される大豆油・ゴマ油や、不乾性油に分類されるオリーブ油や菜種油ではないでしょうか。
和傘に塗る油は、乾性油(かんせいゆ)と呼ばれる空気中で酸化・硬化して固まる性質を持つ植物油が用いられます。
代表的な乾性油には、亜麻仁油(あまにゆ)、荏油(えあぶら)、クルミ油、桐油(とうゆ)等があります。
これらの油は酸素と反応して酸化重合し、時間とともに硬化するため、薄く塗布して乾燥させると耐久性のある膜ができます。
この性質から、伝統的な木工品や絵画の保護、仕上げに使われてきました。
その乾性油を用いることにより、完全に乾燥した和傘の油紙の表面はベタつかずさらっとした紙本来の手触りに近くなります。
【植物油を塗る主なメリット】
1.自然由来で安全性が高い
植物油は天然素材であるため、環境や人体への影響が少なく、古くから伝統工芸に安全に使われてきました。毒性が低いため、食品や日常生活で使う工芸品にも適しています。
2.保護・防水効果
乾性油を紙に塗布すると、油が乾燥して表面に強い保護膜を形成します。
これにより、湿気や水、カビの侵入を防ぎ、耐久性が向上します。
3.自然な美しい艶出し
植物油は光沢を出す効果があり、乾燥後は柔らかく自然な艶が生まれます。
4.時間とともに馴染む経年変化
植物油は酸化を通して変化するため、年月とともに工芸品に味わい深い色合いや風合いが生まれます。
経年変化により風合いが増し、工芸品としての魅力が増します。
※後ほどデメリット面も記載します。
ここまでの内容で、植物油を塗るメリットを挙げて参りましたので、なぜ植物油を塗らない傘があるのかについて触れていきたいと思います。
まず、植物油を塗らない和傘の大まかな分類としては、「雨の日に使用を想定していない」傘になります。
例えば、七五三用の和傘(唐傘)や日本舞踊のお稽古用の和傘等です。
日本舞踊は主には屋内で行われることが多く、また七五三撮影を雨の日に屋外で行うことは特殊な撮影を除き、着物などが汚れる恐れがありますので、控えられます。
このように水に塗れることを想定していない場合は、和傘の油を塗っていない製品をお勧めします。
その理由は下記に記します。
【植物油を塗るデメリット】
1.天然の植物油ですが、日常生活で嗅ぎなれていないニオイなので室内等で使用される場合ニオイが気になる場合がある。
※陰干しすることで、乾燥が進みニオイが消失していきます。
2.植物油が酸化することで、黄色く変化します。
言い換えれば、メリット(4)にも共通する内容になりますが、主に白色の紙は顕著に色の変化が表れます。
※弊社では、販売状況を加味しながら随時自社で植物油を塗っております。白色の傘は特に、塗りたての白い状態でお届けすることを心がけております。油の塗り立ての和傘はニオイが気になる方もいらっしゃるかと思いますが、陰干しすることによる空気をいれることで、徐々に酸化が進みニオイが消えます。
ぜひ白い紙の和傘(雨傘)は時間の流れとともに、色が変化するのを風情と捉えていただき、楽しんでいただければと思っております。
また、昔は酸化が進んだ傘(黄色みがかった和傘)が主流でしたので、お生まれの年代により番傘の色の認識が異なる場合がございます。昔の番傘の色をご希望の方はお問い合わせください。
3.油による塗膜硬化が形成されることにより、経年で強度が劣化する。
これは意外かもしれませんが、特に和傘の構造から想像してみるとわかりやすいです。
和傘の使用は他の洋傘と同じく開閉を繰り返します。
撥水性の布地のものですと、柔らかい生地のため折れても問題ございませんが、油を塗った紙は酸化重合により塗膜【硬化】が起こります。つまり、紙質がより硬くなります。
プラスチックと紙を折り曲げた際にどちらが割れやすいかを考えるとわかりやすいかと思いますが、硬化した紙を何度も折り曲げを繰り返すとその部分が割れてきます。よく「ピリ」が出たと言いますが、「裂ける」との意味です。
また、油を塗った紙は紫外線や温度の影響を受け、塗っていない紙より劣化が進みやすい傾向にあります。
上記のメリットとデメリットを踏まえ、弊社では油を塗る和傘と塗らない和傘を選定し販売しております。
原則として、雨の日にご使用になられない場合は、油なしの和傘(唐傘)をお買い求めください。
現状、油を塗っていない和傘も油引きはできますので、ご用途によりご希望の方はお問い合わせください。
最後に、
和傘に塗る油は、気温・湿度・日射量等の影響により大きく乾燥(酸化)が左右されるため、弊社ではそれを踏まえ季節により植物油の調合比率を変更しております。また、ロットごとに検査を行い満足いく商品のみをお客様にお届けできるように努めております。
今では手にする機会が少なくなった天然材料で作られた和傘をぜひ手に取って、時間の流れとともに変化する風合いを感じていただければ幸いです。